「ほらね、いいやつが最後においしい思いをするんだよ」Sはそう言ってにやりと笑った。
それでも、思春期を迎えて群れを出たアカゲザルのオスは、40~50パーセントが死んでしまう。
「オスの若者にはかなり過酷な世界だ」Sと私は、近くに立ちならぶ小さな建物群のひとつに入った。
白衣とマスクをつけてから、サルの育児室に足を踏みいれる。
ずらりと並んだケージでは、小さい灰色の子ザルがお乳を飲んでいた。
哨乳瓶は厚手のタオルをかぶせた棒に取りつけてあって、それが彼らの代理母というわけだ。
棒にしがみついて乳首をくわえる子ザルは悲しげに見えたが、Sによると、子どもばかりで育てるより、かえってタオル棒のほうが生育がよいらしい。
母親と触れあわずに育った子どもに深刻な影響が出ることは、H・Hという研究者が報告している。
彼の弟子筋にあたるSは、チームを作ってその研究を受けつぎ、発展させている。
親との接触がなかっただけでなく、遺伝的に不運だった場合も含めて、子どもに及ぶ悪影響をなくす方法はないか探っているのである。
Sによると、これまで調べたアカゲザルの約20パーセントは、生まれつき内気だった。
内気かどうかは、すぐおびえるといった見た目の行動だけでなく、ストレスホルモンであるコルチゾールの血中濃度を測定して判断する(その数字は、H大学のJ・Cが、生まれつき内気な人間の子どもで測定したデータと対応している)。
いっぽう衝動的、攻撃的な子ザルの割合は全体のおよそ10パーセントだった。
彼らは愚かな行動をしたり、すぐけんかを始めたりするほか、体内のセロトニンも少ない傾向があった。
セロトニンは鎮静作用のある神経伝達物質で、プロザックなどの抗うつ剤に使われている。
衝動的な子ザルは、遊びがすぐ攻撃的な行動にエスカレートするので、友達がほとんどいない。
社会で生きるための微妙なあやも覚えられず、おばさんザルたちをいらつかせて、早いうちに群れを追われる。
そのほか、気分が落ちこみやすい子ザルも全体の20パーセントほどいる。
母親が交尾のためによそに行くと、身体を丸めて泣き声をあげるのだ。
そんな子ザルたちは、心拍数や、ある種の神経伝達物質の濃度がふつうの子どもより高い。
しかし抗うつ剤を処方すると、状態が改善するという。
子ザルたちのこうしたパターンを見ていると、遺伝子と初期の子育てが、思春期になってからいろんな面を左右することがわかる。
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